卓話者 玉梓俳句会同人 
    俳句協会会員 南 康夫 様

テーマ「山奥の古民家暮らしと俳句」

 今日は「山奥の古民家暮らしと俳句」というテーマでお話しさせていただきます。私が家族とともに暮らしている山奥は、南越前町今庄の町から三里ほど先の上板取という在所であります。20年ほど前に敦賀に抜ける木の芽トンネルができてからは、それほど山奥といった感じでもありませんが、私たちが暮らし始めた30年ほど前は、冬になると栃ノ木峠も雪で通行止めになる山奥でした。今もネットで「日本の秘境100選」と入力すると、白神山地や熊野古道など、日本のそうそうたる秘境の地に混ざり、私たち家族が暮らす板取の茅葺き民家が出てきます。

 板取の民家は江戸時代後期のもので、四軒が残っており、現在はすべて町の教育委員会の管理下にあります。そのうち二軒は妻入り兜造りという、豪雪地帯であることを考慮した特徴的な屋根の形をしており、うち一軒は国の文化財となっております。古民家は人が住まなければ傷んでしまうことから、平成の初めに改修されたことを機に旧今庄町が茅葺き屋根の古民家に住んでくれる人の募集を行ないました。数十組の応募者の中から、おそらく一番若かったであろう私と妻が選ばれ結婚と同時に入居したのが、私たちが板取の古民家に暮らし始めたきっかけです。現在はそのうち三軒を妻やここで育った子どもたちと手分けしながら、囲炉裏の火入れをして暮らしています。

 もちろん、電気屋ガスもありますが、間取りは障子や襖で仕切られているだけでプライベートな空間はほぼありません。家族がいつも一緒にいるような感じで、逃げ場がありませんから、とにかく仲良くしないといけない、喧嘩をしてもすぐ仲直りしないと面白くありません。今も家族の仲は良いですが、子どもたちが小さな頃は、テレビやネットも無かったこともあり、親子のコミュニケーションがとても密だったことを思い出します。

 茅葺きの昔の家は、夏は涼しく冬はとても寒いのですが、今も囲炉裏に火を入れるとみんなが集まってきて話が弾み、心までがぽかぽかしてくる不思議な家であります。そんな暮らしを三十年前から俳句として残してきました。

ご鑑賞いただければ誠に幸いです。